【完全版】非上場企業の自己株式取得(自社株買い)の実務と罠。財源規制・みなし配当・別表5の税務処理まで公認会計士が徹底解説

「退任する役員から自社株を買い取りたい」 「事業承継に向けて、親族に分散している株式を会社に集約したい」

非上場企業において「自己株式の取得(金庫株)」は非常に有効な財務・承継スキームです。しかし、法人税・所得税・相続税・会社法が複雑に絡み合うため、実務上「最も税務調査で否認されやすく、法務リスクが高い取引」の一つでもあります。

本記事では、Big4監査法人および税理士法人で組織再編・株価算定を手掛けてきた公認会計士・税理士が、自己株式取得において絶対に踏んではならない「4つの地雷」と、防衛策(法的理論武装)を解説します。


目次

第1章:株価設定の罠(「低額譲渡」による地獄の課税)

自己株式の取得において、最初に直面するのが「いくらで買い取るか」という問題です。「身内だから額面(あるいは著しく低い金額)で買い取ろう」という安易な判断は、税務上致命的なペナルティを招きます。

■ みなし贈与と受贈益のダブルパンチ

会社が「税務上の時価」より著しく低い価額で株式を買い取った場合、以下のような課税関係が生じます。

  1. 残存株主への課税(相続税法第9条): 会社が安く自社株を買い取ると、結果として残った株主の1株あたりの株式価値が上昇します。税務上、この価値上昇分は「譲渡した株主から、残存株主への贈与」とみなされ、多額の贈与税(みなし贈与)が課されます。

  2. 会社への課税(法人税法第22条2項): 時価と買取価額との差額について、会社側が「受贈益」を得たとして法人税が課税されます。

【防衛策】 適正な「税務上の時価(原則的評価方式・配当還元方式など)」を専門家が算定し、客観的な株価算定書(バリュエーション・レポート)というエビデンスを残すことが絶対条件です。


第2章:分配可能額の壁と「無償減資」による財務戦略

税務上の時価が決定しても、すぐに買い取れるわけではありません。会社法上の厳格な「財源規制」が存在するからです。

■ 会社法第461条(分配可能額の制限)

自己株式の取得は、株主への財産の払い戻し(実質的な配当)に該当するため、会社の「分配可能額(その他利益剰余金など)」の範囲内でしか行うことができません。これを超えて取得した場合、違法配当として取締役が会社に対して連帯して損害賠償責任を負うことになります。

■ 高度な財務戦略:資本金・資本準備金の額の減少(無償減資)

「現預金は潤沢にあるが、過去の赤字などが原因で分配可能額が足りない」というケースは多々あります。 この場合の合法的な解決策が、「無償減資」です。株主総会の特別決議および債権者保護手続を経て、資本金や資本準備金を取り崩し、「その他資本剰余金」に振り替えます。これにより、会社の純資産(現預金)を一切流出させることなく、帳簿上の「分配可能額」だけを創出することが可能です。


第3章:みなし配当と「別表5(1)」の厳格な税務処理

自己株式の取得において、実務担当者や一般的な顧問税理士が最もミスを犯しやすいのが、この申告書処理です。

■ みなし配当の発生(法人税法第24条)

会社が株主に支払う取得対価のうち、「出資の払戻し」に相当する部分(資本金等の額)を超える金額は、利益の配当とみなされます(みなし配当)。

■ 別表5(1)の「資本金等の額」の減算処理(法人税法施行令第8条)

ここが最重要ポイントです。自己株式を取得した際、法人税の申告書(別表5(1))において、「資本金等の額」と「利益積立金額」を正確に按分して減算しなければなりません。

  • 減算する資本金等の額 = (取得直前の資本金等の額) × (取得した自己株式数 / 発行済株式総数)

この計算に基づく減算額と、実際の取得対価との差額が「利益積立金額の減少(みなし配当)」となります。この別表5(1)の処理を1円でも間違えれば、翌期以降の地方税(均等割の基準となる資本金等の額)や、将来のM&A・清算時の税務計算がすべて狂い、税務調査で一網打尽にされます。


第4章:源泉徴収義務と、欠損下における金庫株の消却

■ 源泉徴収の落とし穴(所得税法第211条)

前章で計算した「みなし配当」部分については、会社側に20.42%(上場株式等以外の場合)の所得税等の源泉徴収義務が生じます。

よくあるミスとして「1株あたりの単価で端数処理をしてしまう」ことが挙げられますが、必ず【総額】で計算してから円未満を切り捨てて納付額を確定させてください。納付が遅れれば「不納付加算税」の対象となります。

■ 欠損状態でも「自己株式の消却」は可能か?(会社法第178条)

買い取った自己株式(金庫株)は、純資産の部にマイナス表示され続けるため、見栄えを良くするために「消却」するのが一般的です。 「過去の繰越欠損金(赤字)がある状態でも消却できるのか?」とご相談を受けますが、結論から言えば法的に全く問題ありません。

自己株式の消却は、取締役会の決議(取締役会非設置会社は取締役の過半数の一致)のみで、いつでも実行可能です(会社法178条)。


おわりに:自己株式取得は「攻めと守り」の最高難度スキーム

自己株式の取得は、会社法(財源規制)・法人税法(別表5の処理)・所得税法(源泉徴収)・相続税法(みなし贈与)が複雑に交差する、プロフェッショナル領域のスキームです。

「とりあえず顧問税理士に任せておけば大丈夫だろう」という認識は非常に危険です。複数回に分けて買い取りを行う場合など、1回目の資本変動を2回目に正確に反映させないと、後戻りできない税務リスクを抱えることになります。

株式会社MiChiでは、Big4(大手監査法人)で培った厳格なコンプライアンス基準に基づき、適法かつ企業価値を最大化する自己株式取得スキームの設計・株価算定を支援いたします。

自社株の評価や買い取り、事業承継に関するご不安がある経営者様は、取り返しのつかない事態になる前に、弊社の初回無料診断(セカンドオピニオン)をご活用ください。

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自社株買い(自己株式取得)に関するよくあるご質問(FAQ)

赤字(繰越欠損金)がある会社でも、自社株買い(自己株式の取得)は可能ですか?

条件付きで可能です。ただし「分配可能額」の範囲内に限られます。

会社法第461条の規定により、自己株式の取得は「分配可能額(その他利益剰余金など)」の範囲内でしか行えません。過去の赤字により分配可能額がマイナス、または不足している場合はそのままでは取得できません。ただし、事前に株主総会の特別決議を経て「資本金や資本準備金の減少(無償減資)」を行い、その他資本剰余金を創出すれば、赤字企業であっても合法的に取得財源を確保することが可能です。

親族間で合意すれば、自社株を「額面」などの極端に安い価格で会社が買い取っても問題ありませんか?

税務上、非常に大きな問題(多額の課税)が発生します。

親族間の合意であっても、会社が「税務上の時価」より著しく低い価額で買い取った場合、税務署から「低額譲渡」とみなされます。この場合、法人税法第22条2項に基づき会社側に「受贈益」が課税されるだけでなく、相続税法第9条に基づき、他の株主の株式価値が上昇したとして「みなし贈与(贈与税)」が課税されるという地獄のトラップ(二重課税)に陥ります。必ず専門家による客観的な株価算定(原則的評価方式等)に基づく時価で取引する必要があります。

自社株買いにおける「みなし配当」とは何ですか?どのくらいの税金がかかりますか?

出資の払戻しを超える部分が「配当」とみなされ、最高55%の総合課税の対象になり得ます。

会社が自社株を買い取る際、取得対価のうち「資本金等の額」に対応する部分を超える金額は、実質的な利益の配当(法人税法第24条のみなし配当)として扱われます。このみなし配当部分は、株式の譲渡益(一律20.315%の申告分離課税)ではなく「配当所得」となるため、個人の場合は総合課税として最高55%の税率が適用される恐れがあります。さらに、会社側には20.42%の源泉徴収義務(所得税法第211条)が発生するため、厳格な計算と事前シミュレーションが不可欠です。

自己株式を取得した後の申告書(別表5)の処理を間違えるとどうなりますか?

翌期以降の法人税や地方税の計算がすべて狂い、税務調査で否認されるリスクが高まります。

自己株式を取得した場合、法人税法施行令第8条の規定に基づき、申告書の「別表5(1)」において「資本金等の額」と「利益積立金額」を正確に按分して減算処理しなければなりません。この計算を誤ると、地方税(均等割)の算定基準となる資本金等の額が間違ったまま引き継がれるほか、将来M&Aや会社清算を行う際の税務計算に致命的なエラーを引き起こします。

取得した自社株(金庫株)は、必ず「消却」しなければならないのでしょうか?

消却する義務はありませんが、見栄えの問題等から消却するのが一般的です。

買い取った自己株式を金庫株としてそのまま保有し続けること(会社法第155条)は合法であり、将来別の役員に付与する等の目的があれば保有して構いません。しかし、貸借対照表(B/S)の純資産の部にマイナス表示され続けるため、財務諸表の見栄えが悪くなります。これを解消するため、会社法第178条に基づき、取締役会の決議(非設置会社は取締役の過半数の一致)によって消却手続を行うのが実務上のセオリーです。過去の欠損金がある状態での消却も法的に問題ありません。

この記事を書いた人

四大監査法人(Big4)および税理士法人出身の公認会計士・税理士で構成される株式会社です。
公認会計士としての「保証業務」の品質を税務に応用し、税法・会社法・金融商品取引法や判例に基づく強固な「法的理論武装」と「書面添付制度」を駆使して、KSK2等のAI税務調査から企業を徹底防衛します。
また、M&Aの財務DD、株価算定、事業承継、組織再編スキームの構築など、企業価値を最大化する攻めの財務戦略をワンストップで提供します。

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