「出張のたびに細々とした領収書を集めるのが面倒だ…」 「会社の利益は出ているのに、役員報酬を上げると税金と社会保険料で半分近く持っていかれて手取りが増えない…」
そんな中小企業経営者やひとり社長の悩みを、合法的に解決する有効なスキームが「出張旅費規程の導入」です。
ただし、2026年9月24日に国税庁の新システム「KSK2」が稼働し、申告データの分析にデータ活用が本格的に組み込まれます。ネット上の無料の雛形を実態と合わないまま使っていると、「架空出張」や「役員への利益供与」として給与認定される(仮装・隠蔽があれば重加算税)対象になります。
本記事では、Big4(四大監査法人)出身の公認会計士・税理士が、「旅費規程で日当が非課税になる仕組みと条件」から、「KSK2以後の税務調査で説明できる証拠の残し方」までを解説します。
1. 出張旅費規程で何が変わるのか
出張旅費規程とは、役員や従業員が出張する際の交通費、宿泊費、そして「出張手当(日当)」の支給ルールを定めた会社の公式ルール(就業規則の一部)です。
この規程を正しく導入すると、会社と社長個人の両方に次の3つの効果があります。
- 【会社】損金算入: 支給した日当や宿泊費は「旅費交通費」として損金(経費)に算入されます(定期同額給与の要件を満たす役員報酬なら同じく損金になるため、役員報酬との比較で法人税が減るわけではありません)。
- 【個人】非課税: 役員報酬を増やせば累進課税で税負担が増えますが、旅行に通常必要な範囲の日当・宿泊費は所得税法9条1項4号により非課税で、受け取った個人に所得税・住民税はかかりません。範囲内かどうかは、社内の支給基準のバランスと同業種・同規模の他社水準で判定します(所得税基本通達9-3)。
- 【双方】社会保険料の対象外: 給与ではないため、会社負担分・個人負担分ともに社会保険料の算定基礎から外れます。
2. 【試算】年間でどれくらい手取りが増えるのか?
「出張手当なんて、せいぜいお小遣い程度でしょ?」と侮ってはいけません。規程を整備し、適正な日当を支給した場合のインパクトをシミュレーションしてみましょう。
【モデルケース】ITコンサルタント(ひとり社長)の場合
- 月の出張回数:4回(日帰り2回、宿泊2回)
- 旅費規程の設定額:日当10,000円、宿泊費20,000円(※実費は10,000円のビジネスホテルを利用)
▼ 会社から社長個人への支給額(年間)
- 日当:10,000円 × 4回 × 12ヶ月 = 480,000円
- 宿泊費:実費精算(定額支給にする場合も相場の範囲内で。実費との差額を手元に残す設計は、超過部分が給与になります)
- 日当の年間支給額:480,000円
▼ これを「役員報酬」で受け取った場合との比較 この48万円を役員報酬の増額で受け取ると、所得税・住民税・社会保険料(本人負担分)で概ね30〜40%が差し引かれます。日当として支給すれば、通常必要な範囲である限り、48万円は個人に課税されず、社会保険料の算定基礎にも入りません。
会社側では、日当も、定期同額給与等の要件を満たす役員報酬も、どちらも損金です。会社の法人税が追加で減るわけではなく、違いは個人側の課税と、社会保険料(会社負担分は日当なら生じません)にあります。
つまり、効果の正体は「同じ48万円を、個人の税と社会保険料を経由せずに渡せる」ことにあります。金額は日当の水準と出張回数で変わり、日当の水準は前記の判定基準の範囲内でなければ効果も消えます。
3. 要注意!KSK2(AI税務調査)の標的になる「危険な旅費規程」
これほど強力な節税効果があるからこそ、税務署も黙ってはいません。 特に2026年9月24日に稼働する「KSK2」では、申告データと電子帳簿がひとつの基盤で管理されるため、「同業他社に比べて旅費が多い」「社長一人に日当が集中している」といった比較が、システム上の照合で行いやすくなります(国税庁が公表しているのはデータ基盤の統合までで、自動検知の仕組みは公表されていません)。
ネット上の無料テンプレートを拾ってきて、運用実態が伴わないまま日当を支給している会社は、調査対象に選ばれやすくなります。
【KSK2以後の税務調査に備える3原則】
- 株主総会または取締役会での決議(お手盛り防止): 旅費規程の制定に株主総会決議を求める法令はありませんが、社長の独断ではなく会社の機関決定として承認された水準であることを議事録で残しておくと、調査で支給基準の合理性を説明しやすくなります。
- デジタルエビデンスの保存: 紙の出張報告書だけでなく、Googleマップのタイムライン(GPS履歴)や交通系ICの履歴、現地の写真など、改ざん不可能な客観的証拠を保管すること。
- 遡り一括支給の禁止: 決算期末に「利益が出たから過去の出張分をまとめて支給する」行為は、出張の実費弁償ではなく期末の利益調整と見られ、役員なら損金不算入の役員賞与と認定されます。書類を後から作れば仮装・隠蔽として重加算税の対象にもなります。毎月「精算書」を作成し、銀行振込で証拠を残すこと。
当ファームのパッケージは、この3原則を規程・決議書類・精算様式の形で組み込んでいます。
5. よくある質問(FAQ:自分の場合はどうなる?)
自分と同じようなケースで導入できるのか、よく頂くご質問をまとめました。
6. 次の決算までに規程と記録の仕組みを整える
出張旅費規程は、知っているか知らないか、導入しているかしていないかだけで、年数と出張回数に応じて数百万円規模の差になる仕組みです。
ただし、KSK2以後の税務調査では、規程の文面より運用の記録が見られます。自己流の規程運用は、その記録が残っていないことが多いのが問題です。
当ファームの『出張旅費規程 デジタル内部統制パッケージ』には、Big4監査法人出身の公認会計士・税理士が作成した規程ひな形(Word。株式会社用・合同会社用)、決議書類、精算・根拠ブック(Excel)、整備運用マニュアル(PDF)が含まれます。
規程と記録をこの機会に整えたい方は、詳細をご確認ください。
規程を作ったあと、税理士が実際に直した3か所(適用対象・出張の起点・日当の順番)を書いています。
https://note.com/michi_cpatax/n/n0c805f8d108c?utm_source=site&utm_medium=article&utm_campaign=to_note_travel
